佐藤初女さんのこと2
素敵な女性
2013年06月13日
晴天続きに猛暑と、今年の梅雨ははおかしな具合ですが、6月のこの季節になると浮かぶ光景があります。
佐藤初女さんという女性をご存知の方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。2012年3月29日のブログ佐藤初女さんのことでも書きましたが、青森県弘前市、岩木山の麓で「森のイスキア」という宿泊施設を主宰されている方です。「食は命」の信念のもと、90歳を越えた今も、心尽くしの手料理で、全国あるいは各国からのお客様をもてなされています。 多くの出版物が出ていますので、興味のある方は一冊読んでみられることをお勧めします。
食べることが楽しみと仰る方は多いと思います。反面、食事は体調や精神状態の変化で大きく左右されるものです。食欲は健康のバロメーター。楽しい食事は美味しく感じ、気詰まりな食事は砂を噛むよう。悩みがあると食事も喉を通らない、とはよく言ったものです。
私は殊に過敏に反応するタイプなのか、食べることがとても負担になることがあります。体と心と食事が密接につながっていることを強く実感します。そんな私は、どうしても一度、初女さんの手料理を食べてみたくなり、当時はまだ運行していた寝台特急日本海 に乗って一人出かけていきました (2012年3月18日のブログさよなら、寝台特急 日本海)。それが4年前の6月です。
全国各地からの宿泊者が10人くらい。初女さんも一緒に大きな卓袱台を囲んでの夕食。皆、状況は様々ながら、どこか共通したものがあるのでしょう、たちまち打ち解け、修学旅行のような楽しさでした。その夜は、ふすまを取っ払ってふとんを並べ就寝しました。
翌朝、階下から聞こえる鍋や包丁の音で目覚めました。とても懐かしい感覚です。近くの森を散歩して帰ってくると、卓袱台にはとりどりのおかずが並べられていました。
初女さんの「感謝していただきましょう」の言葉で始まった食事、それはそれは美味しい朝ごはんでした。初女さんが話してくださる南瓜の炊き方、焼き魚をのせた葉っぱの名前…。皆、笑顔です。けれど、別れの時間が迫っていることもわかっています。楽しければ楽しいほど、切ない思いがこみ上げます。会話がふと途絶え、鳥のさえずりが部屋に広がります。
私は食べ終わってしまうのがもったいなくて、一口一口、ゆっくり噛みしめながら食べました。味わい味わい食べました。このまま、ずっと、こうしていたい。そう思ったことを覚えています。旅先の朝食は多過ぎて残してしまうのが常ですが、この日は気づけば完食。一番驚いたのは私自身でした。うれしくて、「全部食べられました!」と隣に座る初女さんに告げると、にこやかに頷いてくださいました。
この日の朝ごはんで、私は一生分の生きる力を授かったような気がしています。そんな大げさなと思われるかもしれませんが、本当です。食の力の深さを身をもって知った旅でした。
このときは思ってもみないことでしたが、今、私も食にかかわる仕事に携わるようになりました。日々、尊さと畏れを感じています。この日の朝ごはんで授かった力を糧に、これからもやっていきたいと思います。
雨降れば雨降るままに
アートなこと
2013年06月05日
写真家 土門拳が好きです。初めて展覧会に行ったのは、15年ほど前でしょうか。「筑豊のこどもたち」に特に胸打たれたのを覚えています。
土門拳の故郷、山形県酒田市に記念館があると知り、5年前、初めて一人旅を計画した時、行き先を迷わずここに決めました。
念願の叶った日、記念館に入ると、中には見慣れない写真が飾られていました。山里のなんでもない花や生き物、古民家…。土門拳の写真はどれも、被写体に向けられたカメラの向こうの鋭い眼差しに射すくめられるような気がします。これらの作品には、そうしたものが全く感じられず、不思議な気がしました。
雨降れば雨降るままに 、
晴れてあればやっぱり晴れてあるままに、
風景はそこにあるより仕様がないのである
説明によると、撮影旅行に向かう道すがら撮られたものとのこと。添えられた氏自身のこの言葉に、腑に落ちた気がしました。私の心にストンと落ちた言葉を心で唱えながら、館内の写真を何周も観て回りました。 なんでもない花や生き物が、そのままで愛おしく感じられました。
誰しも問題が起これば解決したい、困難があれば克服したい、そう思うものではないでしょうか。私もそうしてきたように思います。前向きに立ち向かっていくことは大事なことです。
だけれども…、
どうしたって解決しないこと、克服できないこともあるものです。もしかしたら、どうしても解決しないこと、どうやっても克服できないことの方が多いものかもしれません。結果、疲れ果て、無力感にさいなまれることに。
雨降れば雨降るままに 、
晴れてあればやっぱり晴れてあるままに、
風景はそこにあるより仕様がないのである
これを本物の諦観というのでしょうか。 ただの諦めとは違う、おおらかな受容のような。こんな境地で生きていけたら、そう願い、心で繰り返し唱えてきました。 が、この境地、ちょっとやそっとで到達できるものではありません。(笑)
親族経営から独立、一年余りが過ぎました。無我夢中でやってきました。この間、出来たこと、出来なかったこと。この先、出来そうなこと、出来そうもないこと。少しずつ見えてきたような、まだ見えないような。
最近、この言葉がしきりに心に浮かびます。先に向けて、引き続き力強く立ち向かっていく一方で、こんなしなやかな心持ちも大切なんじゃないか、そんな示唆を与えてくれているように思います。
晴れ着
店のこと
2013年05月24日
もう気づいてくださっている方はあるでしょうか。塩昆布の袋が新しくなりました。
うちの看板商品は、なんといってもじゃこ山椒です。塩昆布はその1割にも満たないでしょうか。なんにつけそうですが、少しの量でものを作るのは割高なものです。というわけで、じゃこ山椒の袋を併用してきました。
お姉ちゃんのお下がりを着せられた妹を見るような…。主役の横で肩身が狭そうな脇役を見るような…。
不憫に思えて仕方がなかったのですが、ようやく専用の袋を作ってやることが出来ました。文句も言わず、健気に頑張ってきてくれた塩昆布、それはそれなりにいい役割を演じてくれています。これくらいのご褒美があってもいいのではと。
娘にやっと晴れ着を着せてやれた親の気分です。
まだまだ未熟な店、揃っていないものがたくさんあります。ゆっくりではありますが、ひとつひとつ大切に揃えていきたいと思います。心尽くしの晴れ着を誂えるように。
お祭りの夜に
お祭りのこと
2013年05月18日
今日、明日は地元の氏神様、下御霊神社のお祭りです。朝早くから、寺町通りに屋台の設営が始まりました。ズラリと並ぶ様はなかなか圧巻です。
昨年は初めてのことで様子がわからず、なにやら興奮し、そわそわと過ごしたのを覚えています。京都でお祭りといえば、鯖寿司とだし巻きがつきもの、ご近所の老舗店で買い揃え、店での昼食としました。とりあえず形から、と構えていたのでしょう。(笑)
ふだんはどちらかといえば大人の街、寺町ですが、今日ばかりは子供が主役。大人も童心に帰ります。2度目の今年、少しは慣れたかと思いきや、外から聞こえる喧騒に、やっぱり一日そわそわ、ワクワクでした。
今夜は宵祭、子供御輿の巡行がありました。薄闇のなか、かわいい掛け声と共に浮かび上がる御輿や提灯を眺めていて、なんだかじぃ~んとしてしまいました。知らなかったお祭りから、知っているお祭りに変わった…、そんな気がしました。
ここ寺町は、古くから住まわれている方も多く、老舗店が軒を連ねる街です。緊張して開店したのも束の間、本当に温かく迎えていただきました。まだまだ地に足着かぬ新しい店ですが、一年一年、お祭りを経験しながら、寺町の店、寺町の人間になっていけるのかな、なっていきたいな、と思った今宵でした。
ジョー岡田さんのこと
店のこと
2013年05月11日
店には、毎日、様々なお客様が来てくださいます。そうした皆様とお話しさせていただくのが、なによりの楽しみです。短い会話のなかにも、その方その方の人となりが垣間見え、人って一人一人がユニークな存在なんだなぁと実感します。「しののめ寺町」にお越しくださるお客様は、ことのほか個性を大切に、前向きに生活を楽しんでいらっしゃる方が多いように思います。
なかでも、とりわけユニークなお客様といえば、ジョー岡田さんでしょう。日本最高齢の通訳ガイド、ちょんまげヘアーがトレードマークの自称「サムライジョー」さんです。主に外国の方対象にユニークなツアーを開催されています。
ここ寺町は日本らしい、京都らしい店が軒を連ねていて、ツアーの通り道になっています。「しののめ寺町」にも毎回お立ち寄りくださり、じゃこ山椒をご試食、私たちも束の間の異文化交流を楽しませていただいています。
クライマックスはジョーさんのサムライショー、最近、近くの下御霊神社の境内で行われるようになり、私も初めて拝見することが出来ました。息を呑む迫力で、是非とも一見の価値あり、です。
ジョーさん、今日5月11日が誕生日、おん年、なんと84歳!
今日も雨のなか、大人数での楽しいツアーが行われました。
ツアーの日は早朝、舞鶴のご自宅を出発。七つ道具を積んだ車を自ら運転、京都市内まで3時間近くのドライブです。毎回、各国からのお客様を連れての案内はサービス精神いっぱい、その合間に緊迫のショーの実演、そしてまた3時間近くかけての帰宅…。ジョーさん、その間、ずっと笑顔で楽しそう。その体力気力、動体視力には驚くばかりです。
商売は体が資本、病気や怪我などあっては、たちまち立ち行かなくなります。ちょっとしたトラブルも命取りになりかねず…。私、先をあれこれ案じては、あと何年頑張れるかなぁ、なんて、時に弱気になることも…。
数えれば、ジョーさんの娘ほどの年齢です。こんな弱気な根性は、ジョーさんのリンゴの空中斬りよろしく、叩き斬ってもらうのがよさそうです。 (笑)
立ち姿がそのまま生き様のような、人生がそのままパフォーマンスのような、唯一無二の人、ジョーさん。
こんな風に、他の誰でもない自分、他の誰でもない人生を送りたいものだなぁと思います。 いつも笑って。まだまだ修行が足りませんが。