私が苦手だったもの 京都
お祭りのこと
2014年08月04日
苦手だったものが開店を機に苦手でなくなった…。うれしいことに、そういうものがいくつかあります。
ずいぶん以前のブログ私が苦手だったもの 春で、「春」を一番に取り上げました。次は「京都」と決めていたのですが、すっかり間が空いてしまいました。京都が苦手だったとカミングアウトするのは相当に勇気のいることだったようです(笑)。
京都で生まれ、以来ずっと京都で過ごしてきました。他府県の方には京都は憧れの街のよう。そうとわかるや、熱く語り始める方がおられます。皆さん、とにかくお詳しい。
私はというと、名だたる神社仏閣を挙げられても、必ずしも行ったことがあるとは限らず。むしろ行っていないことの方が多いかも。有名料亭はお高くてとうてい行けず。名物、名菓、名所…、いずれもあり過ぎて把握しきれず。「はぁ、そうですかぁ」と相づちを打つばかり。どちらが京都の人間やらわからない有様です。
京都に住んでいるからといって、雅なものが好みとは限りません。私はむしろ野趣味のあるものが好き。作り込まれた美より、あるがままの様に心惹かれます。例えばですが、京都の観光寺院の仏像より、滋賀の湖北にひっそりと佇む観音様が好き、てな具合です。(ブログ天狗おじいさん)
ひとしきり京都を褒められたあと、ついてまわるのが京都の人間の気質の話です。表と裏があってなにを考えているかわからないのだとか。女性のイケズ話は必須(笑)で「お茶漬け」のたとえ話まで出てきたひにゃあ、ひっくり返りそうになります。こうした個性って、どこの都道府県でもあることちゃうんかなぁ、と心で呟きながらも、しばし気配を消すことに決めています。
京都って、なにやら面倒くさい…。
店を開き、さまざまなお客様にお越しいただくようになりました。半数近くは他府県からの方でしょうか。京都をこよなく愛し、足繁く通われる方も少なくありません。なかには京都好きが高じて移り住んでこられた方も。
そんなお一人、定年を前に退職し、関東から引っ越してこられた女性がご近所にいらっしゃいます。着物でお出かけになる姿をよく見かけますが、京女(きょうおんな)の風情そのもの。京都での暮らしを心から楽しみ、慈しみ、感謝しておられるご様子です。そんな暮らしぶりを伺うのが、いつからか私の楽しみになりました。
京都って、素晴らしい街なのかも…。
7月に入ると、京都の街はそこらじゅうで祇園囃子のBGMが流れ、一気にお祭ムードに包まれます。今年はいつになく、いてもたってもいられなくなり、宵々山の夜、仕事帰りに出かけていきました。雑踏にもまれながら鉾を見上げ、生の祇園囃子を聴き、厄除けの粽(ちまき)を購入。それだけのことですが、とりあえず気が済んで帰ってきた次第です。
京都の人間ぽくなってきたやん、私…。
今年の祇園祭は49年ぶりに前祭と後祭に分けての巡行となり、後祭では「大船鉾」の150年ぶりの復活が話題となりました。巡行本番を前に行われる「曳き初め」の日は、たくさんの観衆だったようです。その中には先のお客様も。
数分前まで雨模様だったのが直前に晴れ渡り青空に。その下、鉾が動き始めるや一斉に拍手が沸き起こったそうです。その場の感動はいかばかりだったでしょう。「150年の先人の思いね」と、目を輝かせて話してくださるのを聞きながら、私もこみ上げるものが。思わず知らず涙がこぼれました。
京都の先人の血が私のなかにも脈打っている。畏れ多いながら、そう感じた瞬間でした。
京都の空を見上げ、京都の空気を吸い、京都の食材をいただき暮らしてきた日々。街の佇まい、四方に見える山、鴨川の流れ、四季折々の風習、京言葉…。長年にわたり目にし、耳にし、口にしてきたものは、私の中に根付き、今の私を形作っているようです。
私にとって、京都は出かける街でなく、ずっとそこにある街やったんやぁ。
私は私の感性で、京都の街を味わっていこう。やっとそう思えるようになりました。
夢見通りの人々
お祭りのこと
2014年05月25日
店を開いてからはすっかり時間がなくなりましたが、もともと本を読むことが大好き。願わくば日がな一日、本を読んで暮らしたいと思うくらいです。
数年前、宮本輝さんの「泥の河」に感動し、立て続けに何作品か読んだことが。そのなかに「夢見通りの人々」という作品がありました。
夢見通りに住む人々の人情味あふれる暮らし、心の機微があたたかい筆致で描かれています。詳しいストーリーは忘れてしまいましたが、ほのぼのとした読後感がタイトルの「夢見通りの人々」という心地いい音の響きと相まって、今も忘れ難い一冊です。
もう二年半ほど前のことになりますが、店を開くにあたって物件を探して、京都の通りを東西に南北に歩き回りました。そんななか見つけたのが寺町通りの小さな物件です。
程よい広さの車道を譲り合うように行き交う車。両側に青々と茂る街路樹。整備された歩道をそぞろ歩くひと。
味わい深い店が軒を連ねた趣ある商店街。そこに住まうひとの暮らしぶり。観光で訪れるひとの華やぎ。そうしたすべてがうまく融合して、えもいわれぬ風情を醸している通り。なんて素敵な街。
「夢見通りの人々」…、ふと、そんな言葉が心に浮かびました。
一目惚れしたこの物件が、今の店です。あれよあれよという間に契約に至ったのは、なにかのお導きとしか思えない幸運でした。(ブログ2011年11月28日)
改装中に足しげく通ううちにますます好きになり、開店後はさらにさらに好きになり…。好き過ぎて、この通りに店を構えていることが信じられなくなることがあります。長い長い夢を見ているんじゃないかと。
「夢見通りの人々」…、それは私自身かも。
店の前で置き看板を拭いていたりすると、うしろで「こんにちは」の声。振り向くと、近所のお店の方だったり、馴染みのお客様だったり。慌てて「こんにちは」と返事をする私…。あぁ、本当にこの通りに店を構えているんだ、夢じゃないんだ、と実感する瞬間です。
先週末はこのあたりの氏神様、下御霊神社のお祭でした。縁日が並び、多くのひとで賑わう通りを、長い巡行を終えたお神輿が夕方遅く神社に戻ってきました。
「夢見通りの人々」
担ぎ手さんたちのうしろ姿を見送りながら、今年もまた目頭が熱くなった私でした。(ブログお祭りの夜に)
お祭りの夜に
お祭りのこと
2013年05月18日
今日、明日は地元の氏神様、下御霊神社のお祭りです。朝早くから、寺町通りに屋台の設営が始まりました。ズラリと並ぶ様はなかなか圧巻です。
昨年は初めてのことで様子がわからず、なにやら興奮し、そわそわと過ごしたのを覚えています。京都でお祭りといえば、鯖寿司とだし巻きがつきもの、ご近所の老舗店で買い揃え、店での昼食としました。とりあえず形から、と構えていたのでしょう。(笑)
ふだんはどちらかといえば大人の街、寺町ですが、今日ばかりは子供が主役。大人も童心に帰ります。2度目の今年、少しは慣れたかと思いきや、外から聞こえる喧騒に、やっぱり一日そわそわ、ワクワクでした。
今夜は宵祭、子供御輿の巡行がありました。薄闇のなか、かわいい掛け声と共に浮かび上がる御輿や提灯を眺めていて、なんだかじぃ~んとしてしまいました。知らなかったお祭りから、知っているお祭りに変わった…、そんな気がしました。
ここ寺町は、古くから住まわれている方も多く、老舗店が軒を連ねる街です。緊張して開店したのも束の間、本当に温かく迎えていただきました。まだまだ地に足着かぬ新しい店ですが、一年一年、お祭りを経験しながら、寺町の店、寺町の人間になっていけるのかな、なっていきたいな、と思った今宵でした。