素敵な女性

2025年06月26日

辰巳芳子さんのこと

素晴らしい映画を観ました。「天のしずく 辰巳芳子 ”いのちのスープ”」。100歳の料理家、辰巳芳子さんの12年前のドキュメンタリー映画です。

嚥下障害のお父様のために、四季折々の食材を使って作り続けられた「いのちのスープ」。そのレシピは多くの人に師事され、医療機関でも取り入れられています。

そうしたことを知ってはいましたが、それで一本のドキュメンタリー映画ができるなんて…。

ささやかながら私も食に関わる仕事をさせていただいている身。この映画はぜひ観ておいた方がいい! そんな思いに駆られ、出掛けていった次第です。

ゆっくり適切な言葉を選びながら語られる辰巳さんのお話は、静かながら、とても力強く。ご聡明さと、豊かな感性、揺るぎない信念に、たちまち引きこまれてしまいました。

その根幹にあるものは、幼少期、恵まれた家庭環境で育まれたように思います。

やはり料理家であられたお母様の日々の言動を懐かし気に話されるご様子は、本当に楽しそう。

幼い日にお母様に体を洗ってもらわれた時の感覚が、けんちん汁を作られる際の野菜の混ぜ方につながっているというエピソードなど、笑ってしまいそうです。

けれどご本人はいたって大真面目で、写真立ての中のお母様もうれしそうに聞いておられるよう。

そんな幸せな時代も、やがて戦争へと向かいます。

婚約者が間もなく召集されるとわかったうえでのご結婚。たった3週間の新婚生活で出征され、還らぬ人に。

ご両親の意に反して結婚を決意された、その時のご自身の判断力について、長年思い巡らせておられたとのこと。

何事も迷うことなく突き進んでこられたかに見える辰巳さんの思いがけない告白に、失礼ながら一気に親近感を持ってしまいました。

そして50余年を経て、ご主人が命を落とされた異国の海へ、なにかに導かれるように赴かれたとのこと。船でえい航しながら満身に夕日を浴び、そこで湧き起こられた思い…。

その場の映像がありありと浮かび、感動に震えてしまいました。

真摯に、懸命に、これまで生きてこられた方だからこそ体現された、神様からのプレゼントだったのではないでしょうか。

それにしても、そこに辿り着かれるまでに、こんなにも長い年月がかかるとは…。

映画の後半、同世代のハンセン病患者さんに会いに、瀬戸内の島を訪ねられる場面があります。

料理番組で辰巳さんのことを知り、「いのちのスープ」で親友を看取ってあげられた、その感謝の思いをしたためた手紙を受け取られてのことでした。

お二人、海に向かって腰かけながら、お互い問わず語りに会話されるシーンが印象的です。

その患者さんご自身、どんな過酷な人生だったかと想像します。けれど、親友にいのちのスープを作ってあげられた喜び、発病当時にご両親から受けた愛情の深さなど、語られるのは明るいことばかり。

「80歳を過ぎてやっとわかったことなんですよ」

との言葉に、

「私もよ。80歳を過ぎてわかることってあるのね。一緒ね、一緒ね」

と旧知の友人のようにうれしそうに共感される辰巳さん。

人生はなんて苦しくて、なんて美しいんだろう…。

私もそこそこ長く生きてきて、ようやくわかってきたことがたくさんあります。けれど、まだまだわからないことだらけ。

なぜ…。どうしたらいいんだろう…。問いや迷いがいつも心の中で蠢いています。

私も必ずや80歳を過ぎるまで生きて、この境地を見てみたい!

12年前のドキュメンタリー映画ですが、古さを感じるどころか、今の時代を生きる私たちに、とても新鮮に訴えかけてくることがたくさんあります。

「いのちのスープ」の根底にあるものは、時代を超えて不変なのでしょう。

日本の風土、農業、次代への食文化の継承などが、美しい映像と共に描かれ、草笛光子さんの語りと谷原章介さんのナレーションも素敵です。

この先も折に触れ、様々な場所で上映されていくことを願ってやみません。

内容について、細かな部分で私の記憶違いがあるかもしれません。私なりの解釈となりますことご了承ください。

今、観ておいてよかった映画! 出逢えたことに感謝です。

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