心と体のこと

2014年01月21日

オランダの女の子

ここ寺町界隈は外国の方にも人気のようです。古美術店巡り、御所への道すがらと、毎日たくさんの方がそぞろ歩かれています。

 

ブログジョー岡田さんのことでも紹介していますが、通訳ガイドのジョーさん率いるツアーでは、毎回多くの外国人観光客の方が「しののめ寺町」にお立ち寄りくださいます。小さな子供さんづれのファミリーも珍しくありません。そんなとき私はある家族の姿を探している自分に気づきます。

 

4、5年前、まだ「しののめ寺町」開店前のことです。お盆の休暇に夫婦で旅行に出かけた帰り、京都の地下鉄で外国人のグループと一緒になることがありました。席を譲り合ったのがきっかけで会話が始まりました。

 

グループと思ったのは、両親と子供5人のファミリーでした。オランダの方でイギリス在住とのこと。2週間近くかけて日本を旅しているのだと、正面に座る父親が話してくれました。その傍らに末っ子らしい7歳くらいの女の子が寄り添っていました。白い肌に青い目、金髪のおかっぱ頭にカラフルなキャップをかぶり、映画の子役に出てきそうな可愛い子。目が合うと、はにかんだ笑顔を見せてくれました。まもなく私たちの降りる駅になり、いい旅をと告げて別れました。

 

翌日8月16日は「五山の送り火」の日、私たちは自宅近くの賀茂川に架かる橋、北山橋から見るのが恒例です。8時点火の「大文字」を見た後、15分後に灯る「船」を見るため橋を渡っていると、驚いたことにきのうのファミリーとばったり出会いました。大変な雑踏の中、奇跡のような再会です。さっそく彼らを「船」の見えるベストポジッションに案内しました。

 

亡くなった家族が「お盆」と言われるこの季節にあの世から帰ってくること、この火に送られてまた戻っていくこと、私は精一杯の単語を並べて説明し、火に向かって手を合わせてみせました。どこまで通じたかわかりませんが、火を見上げる彼らの横顔は厳かでした。

 

そんな合間に末っ子の女の子がよく話しかけてきました。彼女の早口を聞き取れずにいると、父親がゆっくり話すよう注意してくれました。

「I like your hair」

思いがけない言葉にポカンとしていると、聞き取れなかったと思ったのか、もう一度ゆっくり言ってくれました。

あなたの髪が好き…、

金髪の彼女の目に、栗色に染めた私のショートヘアはどう映ったのでしょう。小さくても女の子、そんなことが気になるのかと、おしゃまな彼女がまた可愛く思えました。

 

火も消えかかるころ、私たちは橋の上で別れました。握手をしようと差し出した手を、両親は両手で握ってくれました。彼女にもさよならを言おうと腰をかがめると、彼女は両手を私の首に回して抱きついてきました。

 

遠い海の向こうイギリスに帰って、彼女は今日のことをどんな風に思い出すのだろう。素敵なレディに成長するに違いない彼女、果たして今日のことを憶えていてくれるだろうか。小さな体を抱きながら、私は時空を超えてそんなことを思い巡らせていました。

 

幼い子供のこと、日々の暮らしに紛れて今日のことなどきっと忘れてしまうだろう。記憶なんてそんなもの。でも私は憶えているよ。あなたを忘れないよ。そう心で囁きながら、彼女の背中をそっと撫ぜました。

 

あまりに年の離れた私たち、なにがそんなにと不思議ですが、今でも繰り返し思い出される珠玉のような記憶です。

 

橋の上の奇跡のような再会は、二度とはないでしょう。それでも、いつ会っても彼女に恥ずかしくないひとでいたいなぁ、そんなことが一つの目安になっている私です。

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