アートなこと
2022年09月14日
月23
今年の春のことになりますが、素敵なオブジェがうちにやって来てくれました。長さ15㎝ほどの三日月を象った磁器の焼き物です。タイトルは「月23」。どうやってうちに来てくれたのか。その顛末を書いてみたいと思います。
自宅の近くに陶芸家の I さんご夫婦がお住まいで、古くから親しくさせていただいています。
ご主人のHさんは芸術家肌。前衛的なオブジェを得意とされ、私はその尖がった作風の大ファンで。個展をされると聞くと出かけて行き、心掻き立てられる作品を飽かず眺めていたものです。
一方の奥様Nさんは癒し系。コーヒーカップやお鉢など日常使いできる作品も多く。その優しいフォルムと色合いは、手に触れるだけで心休まるよう。うちの食器棚にもいくつかしまわれています。
服装もお洒落で、どんな服もお二人にかかると先端ファッションに。道で出会うと「ファンキーですねぇ」なんて言いながら、ファッションチェックを始めてしまう私です。そんな大好きな I さんご夫婦。それが…数年前にご主人が突然、天国へ旅立ってしまわれました。
生憎、私はお通夜も葬儀も伺えず。気になっていたところ、しばらくして自宅内に併設のギャラリーをオープンしたとの案内状が届きました。ご主人存命中に進められていた計画らしく。哀しい出来事をはさみながらも、完成に漕ぎつかれたようです。
早速訪ねてみると、ご主人の気配がそこかしこに漂う素敵なギャラリー。すぐ横に設えらえた仏壇にお参りし、ようやくホッとした思いでした。
ご主人は美術系の学校で長く教鞭も取られていました。教え子たちの展覧会を、このギャラリーで。というのがご主人Hさんのたっての夢だったよう。ようやくそれが実現したとの案内状が届いたのが、今年の春のことでした。
個性的な作品が並ぶ中で、私は一つの作品がとても気になりました。外国の絵本に出てきそうな顔のある三日月。えもいわれぬ表情としぐさに、眺めているだけで心が穏やかになっていくよう。上記の写真がそれです。
実は私、月、なかでも三日月が大好きで。このブログでもよく月のことを書いています。(ブログ三日月)(ブログ月は満ち 欠け また満ちていく)
帰り際、奥様のNさんに「これ、好き!」と思わず伝えてしまいました。それが運命のひと言に…。
聞けばこの作家さん、今は小さな子供さんを抱え、ママとして大忙しの毎日とのこと。滋賀の陶芸工房で働かれるも、ご自身の創作活動からは遠ざかっておられるもよう。この作品はまだお若い頃のものとのことでした。
他の方の作品は販売されているものもありましたが、こちらは非売品。ご自身にとっては貴重な宝物。手放されることはないだろうと思いながら帰ってきました。
それが、それが、私が気に入ったことを作家さんに伝えてくださったところ、譲ってくださることに。お代は、おじゃこが大好きなので、おじゃこを送ってもらえればうれしい。なんてお返事で。
いやいや、それはきちんと対価をお払いしたいと伝えたうえで、展覧会終了と同時にもらいうけてきた次第です。
結局、奥様のNさんが、作品としての適正価格を割り出してくださり。その金額分のおじゃこをお送りするということに相成りました。
「お互いの大切なものを物々交換したみたいで、こういうのもいいね!」ってNさん。
いやはや、技術と魂の籠もった唯一無二の作品に、うちのおじゃこが見合うものだったのかどうか、はなはだ疑問です。が、後日、作家さんから心のこもったお手紙をいただき、これはこれでよかったのだと納得しました。
なんでも、自分の作品を気に入ってくれる人がいたということ。そのことがまずうれしく、とても励みになったとのこと。おじゃこを召し上がりながら、その思いをまた新たにかみしめてくださったもようです。
私のありのままの思いが、なにかしらお役に立ったのなら、こんなうれしいことはありません。
こうして思いがけずやってきてくれた「月23」。いつでも眺められるようにと、自宅のダイニングテーブル横の壁に掛けました。
時間がなくてバタバタしている時も、気持ちの沈む時も、ちらっと見るだけで不思議と心が落ち着きます。
「心の声を聴いてごらん」
なんだか、そう言われているような。
「月23」はほんと自分の心の声を聴いているみたい。自分の心の声に耳を傾け、静かに自分と向き合っているよう。
試しに同じポーズをとってみると、両の掌がちょうど胸に当たります。うん、うん、ここに心があるんだ。次に目を閉じて、静かに心の声に耳を傾けます。
listen to my heart…
私がいつも心に留めているキーワードです(ブログべネシアさんのこと)(ブログjupiter 2)。それが、日々の出来事に右往左往し、すっかり忘れてしまっていました。
たとえわずかの時間でも、自分の心と向き合うこと。その奥底にくぐもった自分の心の声に耳を傾けること。「月23」は私にそれを思い出させるために、うちにやって来てくれたんだ。
作家さんと私、確かに、お互いが今、必要としているものを交換し合ったようです。
こんな素敵なご縁をつないでくださった I さんご夫婦。やっぱりお洒落で粋だなぁ。Hさん、これからもこんな私たち二人を、天国から見守っていてくださいね。