心と体のこと
2024年01月25日
我
年末になると、今年の世相を表す漢字一文字、というのが発表されます。清水寺の舞台で貫主様が大きな筆で墨書される様は、年末の風物詩の一つとなりました。
去年は「税」でしたね。墨液の滴る文字のなんと力強いこと。思いの込められた漢字一文字の持つエネルギーに、いつも圧倒されてしまいます。
実は私は昨年の年頭に、「今年の漢字一文字」を決めていました。
といいますのも、昨年一月末に参加した新年会。今年の抱負を漢字一文字に表わして書き初めしよう、という企画だったのです。
このお話を聞いた時、すぐに心に浮かぶ文字がありました。これを書きたい! そう心に決めて出掛けて行きました。
筆を持つのは何年振りでしょう。墨汁の懐かしい匂い。色紙を一枚ずつ手渡されるや、練習なしの一発勝負!
緊張感と共に、一画一画、ゆっくり思いを込めて書き上げました。それが上記の写真です。
「我」
う~ん、お恥ずかしい。小学生の時の方がうまかったぁ~(笑)
字の上手下手はさて置き。なぜ「我」(われ)だったのでしょう。
気付けば、そこそこ(!)長く生きてきました。けれど信念を持ってまっしぐら、という人生では決してなかったように思います。
右を見れば、右が輝いて見え。左を見れば、左が輝いて見え。自分に欠けている部分を埋めようと、いつもなにかを探していました。
でも、いつまでたっても探し物は見つからず。欠けた部分が埋まることもなく。私はなにをやっているんだか、とため息をつくことしばしば…。
それはひとえに私の芯が定まっていなかったからだと思います。基準になるものが、自分の中ではなく、外にある。
もうそろそろ、そんな生き方、やめにしない?
基準は、自分が正しいと思うこと。自分が心地いいと思うこと。
誰とも取り替えられないこの人生、自分は自分でいいじゃないか。
自分を最優先に。
自分ファースト!
開き直りともいえる境地です(笑)。
ちょうどそんなことを思い始めていた頃。思わず知らず「我」の文字が浮かんだのだと思います。
書き初めのあと、食事をしながら一人一人、色紙を手に今年の抱負を高らかに宣言。とても楽しい新年会となりました。
というわけで「我」を胸に過ごしてきたこの一年。さぞや自由気ままに生きられたかというと…。
全くもってそうではありませんでした。
「我」を大切にするためには、まず「我」を知っていなくてはなりません。それが明確でなければ、そもそも基準が定まらない。
改めて自分に問いかけてみます。
自分にとって本当に大切なものはなに?
過小評価も、過大評価もしない、本当の自分の身の丈ってどれくらい?
いったい私はどうなりたいの?
……
自分のことって案外わかっていないもの。改めて突きつけられると答えられず、考えるほどにわからなくなっていくばかり。
我(われ)は我(が)でもあります。我(われ)と我(が)は表裏一体。自分を大切にするあまり、我(が)が出過ぎて、我がままに反転してしまうことも。
はぁ、難しい。
それでも、とことん自分と向き合い。ああでもない、こうでもないと、取捨選択を繰り返し。一年かけて、少し自分というものがわかりかけてきたこのごろ。
思えば「我」の文字に導かれ、「我」の文字に背中を押されて過ごしていたような。これも言葉の持つ力、言霊(ことだま)の為せる技だったでしょうか。
これからも人生は続き、「我」も続きます。「店」もできる限り続けていきたいと思っています。
目まぐるしく変化する時代の流れの中、先のことは誰にもわかりません。それでも、どんな時も、しっかりと自分と向き合い、その中にある基準を大切に進んでいきたい。
そんなことを思う年明けでした。
どうぞこれからも寛容に見守ってくださいますよう、また一年よろしくお願いします。