素敵な女性

2019年05月13日

堀文子さんの言葉4

私が敬愛する女性の一人、堀文子さんが今年2月、100歳でお亡くなりになりました。「群れない」「慣れない」「頼らない」をモットーに、絶えず新たな画風を切り拓いてこられた孤高の画家です。

 

訃報は残念ではありましたが、天寿を全うされたというにふさわしい見事な人生。お疲れ様でしたとご冥福をお祈りするばかりでした。

 

そんな折、京都高島屋で堀文子展が催されるというニュースが届きました。生誕100年展が、巡回中に追悼展になったとのこと。これもまた見事な巡り合わせに思えます。

 

堀文子さんを知ったのは、ずいぶん前に放送された教育テレビ「日曜美術館」でのことです。ご本人が、自身の創作活動をそれはそれは楽しそうに話されるのが印象的でした。司会の壇ふみさんがまぶしそうに向けられていた視線が、私の視線そのもののように感じたのを覚えています。(ブログ画家 堀文子さんのこと

 

それからだいぶ経った数年前、とあるブックカフェで偶然に堀文子さんのエッセーに出会いました。楽し気に創作活動を語られていた、その笑顔の向こうにある孤独と厳しさ…。以来、心から敬愛するようになりました。(ブログ堀文子さんの言葉3

 

とはいえ作品を観るのは、テレビや著書のなかの写真でばかりでした。今回、初期の作品から絶筆まで一堂に会されるとのこと。矢も盾もたまらず出かけて行きました。

 

会場はテーマに沿ってコーナーが設けられていました。角を曲がるごとに現れる新しい画風の絵に、驚きと感動の連続。その多彩さは、いったい何人の画家の手によるものかと思うくらいです。

 

なかでも今回、一番楽しみにしていた作品があります。「幻の花 ブルーポピー」。標高5000メートルのヒマラヤに、この世ならぬような青色の花が咲くと知り、82歳でヘリコプターに乗り、酸素マスクをつけ、岩場を上り下りし、命がけで探し当て、スケッチされたという花の絵です。

 

会場後半でいよいよ対面できた「幻の花 ブルーポピー」。花は可憐だけれど、外敵から身を守るためなのでしょう、根元にはこれでもかというほどの鋭利な棘。その絶対的な存在感に驚かされました。

 

過酷な環境で、誰の目に留まることなく、ましてや褒められることもない。それなのに、一体なんのためにと思うほど美しく、逞しく咲く花。気高いその姿は、まさに堀文子さんが愛された「孤高」を体現したかのようです。

 

やっと出逢えた憧れの絵でしたが、うれしさよりも戸惑いの方が大きかったかもしれません。心地良い美しさとは全く違う、痛みを伴う美しさ、とでもいうのでしょうか。それは生まれて初めての感覚。出逢ったことのない「美」でした。

 

「美」は私が思っているより、もっと多様なものなのかもしれない。

 

「花の画家」とも称される堀文子さん。最晩年のコーナーに向かうと、描かれる花や木々も、終焉をイメージさせるものが増えていきます。

 

けれど決して寂しげでも、はかなげでもありません。虫食いだらけだけれど、フィナーレを飾るにふさわしい鮮やかな色彩の落葉。凄みすら感じられる、枯れ果てたひまわりの立ち姿。絶筆の紅梅の赤は、私には命ほとばしる鮮血の色に見えました。

 

「美」は生き様そのものなんだなぁ。

 

知人で洋画家の野見山暁治さんが、こんな追悼文を寄せておられます。堀文子さんはよくお酒を召し上がる方だったそうですが、酔うと「あたしはね、今まで流した涙の量だけ飲むのよ」と漏らされることがあったとか。そして、自分で言ってきまり悪くなると、少しばかり不機嫌になったりされると。(京都新聞 2月21日掲載)

 

孤独の空間と 時間は 何よりの 糧である。

 

堀文子さんの言葉です。この言葉の向こうに、どんな人生があったんだろう。人知れず、どれだけの涙を流してこられたんだろう。想像も及びませんが、堀文子さんの人間臭い一面を垣間見させてもらった気がするエピソードです。

 

「なんで、そんなことをばらすのよ!」と、天上で苦笑いしておられる堀文子さんのお顔が浮かぶようです(笑)。

 

追悼文はこう結ばれています。あれだけ日本画で新しい世界をつくり、多くの人を魅了しながら、ついに国からは何の栄誉も与えられなかったことを、ぼくは堀さんの素晴らしい勲章だと思っている、と。

 

自由で革新的なグループを活動の場とし、最後はどこにも属することなく、全く自由な創作に徹せられたとのこと。勲章を与えられなかったことは意外で、あれこれ憶測をしてしまいます。が、堀文子さんの前では、そんなこともつまらぬことに思えてきます。まさに「幻の花 ブルーポピー」の如し。

 

私もいつか「幻の花 ブルーポピー」としっかり向き合えるようになりたい…。

 

堀文子さんから宿題をいただいたような気がする展覧会でした。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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